第7回 多様な学び実践研究フォーラムに参加して
9月5日(土)と6日(日)の二日間、多様な学び保障法を実現する会/フリースクール全国ネットワーク主催の「第7回 多様な学び実践研究フォーラム」にオンライン(Zoom)で参加してきました。
このブログでは、そこでの研究発表や実践例等を頭の中で整理する上でざっくりと振り返り、最後にアートコンパスの今後の方向性を皆さんと共有させていただければと思います。
はじめに多様であるということは一体どういうことなのか?
それはきっと学びの現場に限らず、日常生活において私たち市民がひとり一人の自由を保障し、その機会や幅広い選択肢、その豊かな環境を一個人だけでなく、家族や会社組織、自治体や地域社会が対話を通して整備していかなければ成り立たないと考えています。
では「学び」の観点からはどうなのか?
今回参加したフォーラムはこの観点から、新しいこれからの学びのあり様を、日本における法制度とその実践例を通して具体的に話が進められていきました。
法とは私たちの行動や実践を縛りつけるものではなく、開放する自由の枠組みとして。実践とは法の中で遊び、ときに法の解釈を突き破るものとして。そして双方が互いに影響を及ぼしながら移り行く時代のニーズや価値観とともにより良く変化し続けていかなければならない存在として。私なりの解釈です。
それでは見ていきます。
●概要
9月5日(土)
・基調講演(13:30~15:30)
「子どもの学ぶ権利保障と多様な学びのこれからー子どもの権利条約採択30年の節目に」
喜多明人氏(子どもの権利条約ネットワーク代表・早稲田大学名誉教授)
1)なぜ、普通教育の機会確保法でなければならないのか
2)人権としての普通教育という考え方
3)子どもの学ぶ権利の行使と多様な学び=人権としての普通教育の創造
4)普通教育機会確保法の実施主体(行政)の形成
5)普通教育機会確保法制の重点課題(制度設計)
・シンポジウム(16:00~18:00)
「若い命が生き生きと育つー幼児・小学生の多様な学びの実践」
永易 江麻氏(東京コミュニティスクール法人事務局)
西村 早栄子氏(智頭の森こそだち舎理事長)
熊谷 亜希子氏(共育ステーション地球の家代表)
中川 綾氏(大日向小学校/日本イエナプラン教育協会)
今井 睦子氏(世田谷区ほっとスクール「希望丘」施設長/東京シューレ)
進行:奥地 圭子氏(フリースクール全国ゼットワーク代表理事/東京シューレ代表)
・報告会(18:00~18:30)「外国籍の子どもの教育機会確保」
小貫大輔氏(東海大学国際学科教授)
・懇親会(不参加)
9月6日(日)
・分科会 午前の部(9:00~11:20)テーマ⑦「多様な学びの自由研究発表」
・分科会 午後の部(12:20~14:40)テーマ⑧「市民で新しい場をつくろうー立ち上げ、運営、養成」
・全大会(15:10~16:30)「台湾のオルタナティブ教育の特徴と展開」
登壇者:王美玲氏(淡江大学准教授)
●動機
今から約二年前、アートコンパスの活動とともに日本や世界のオルタナティブ教育(フリースクール、シュタイナー、イエナプラン、サドベリー、フレネ、他)をリサーチしていたころ、同フォーラムの存在を知り、早稲田大学で行われた第5回のフォーラムに初めて参加しました(2018年2月)。フリースクールをはじめ、日本各地で多様な学びを実践されている個人・団体の考えやその事例からとても刺激を受けたのを今でも覚えています。
そして(第6回が確か九州の方で開催なので不参加)今年2月、東京での開催がコロナによって延期となり、オンラインでの開催があることを数日前に知り、急いで申し込みをした次第です。
このフォーラムは可能であれば毎年参加したく、前回の参加時から約二年間、私も当時に比べて様々な経験をさせていただき、また今現在いろいろと考えるところがあったため、何かそのヒントや新たな知見を得られないかな?と思い、日本における多様な学びの動向も踏まえて参加させていただきました。
ブログ:第5回の模様(2018年2月)
http://artcompassblog.blogspot.com/2018/02/5.html
●日本の公教育の流れ
ざっくりと時系列でお伝えします。
・江戸時代、学校は存在せず各村に寺小屋が学びの場であった。
・明治時代に「小学校令」というものがあり、その中では学校以外での義務教育が認められていた。
・しかし、戦時中に「国民学校令」(1941)の公布において、私立学校も認めない国民学校の一本化に義務教育が移る。
・そして戦後の「学校教育法」(1947)にもこの考えが引き継がれ、戦前に存在した「学校外の普通教育」が認められないままつい最近まで至っていた。
・結果、「不登校」「いじめ」「ひきこもり」等に代表される社会問題(1960年頃~)が起こる。つまり、多様性や寛容を認めない「排除」の考えです。
・そこで、2016年12月14日、普通教育機会確保法(以下リンク)が公布されました。これは法的な意味で公教育に適応できない子どもたちにも普通教育を保証するというもの。つまり戦時中から続く「排除」から「包摂」の考えに国が移ったと捉えることができます。
https://freeschoolnetwork.jp/file/20170403kakuhohou.pdf
・しかし、自治体によっては不登校の子どもたちに対し「学校復帰」を前提に対応している教育委員会や学校現場も多いようです。
・この現状を受け、2019年10月25日、文部科学省は全国に通知。それは従来の不登校政策(学校復帰の前提)を廃止し、学校外の多様な学びを認め、公的な支援を行う政策(社会的自立を目指した支援)に転換するというもの。
・しかし、まだまだ他にもたくさん課題が残されており、日本の法律では外国籍の子どもたちには義務教育が適応されない事実、義務教育段階における普通教育の無償制、スタッフの養成・研修等々。
・そこで喜多氏による基調講演において、「日本国憲法」と「子どもの権利条約」の理念を踏まえて「普通教育機会確保法」の意義(一体的な解釈)を深める場としてお話がありました。
・加えて現在、小学生の不登校数の増加傾向、保護者の意識変化(公教育以外の学びの場を希望)もあり、今後多様な学びの場の実践に伴う法の見直しが進められていくと思われます。ちなみに今回のフォーラムに大学生も多数視聴。若い世代の関心がうかがえました。
▼普通教育機会確保法の条文
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1380952.htm
▼日本国憲法第26条
http://law.main.jp/kenpou/k0026.html
▼子どもの権利条約
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html
▼教育基本法
https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html
▼学校教育法
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1317990.htm
●全体の感想と印象
全体の印象としては、フリースクールだけに絞られない(台湾や韓国の事例も含む)多様な学びの場の観点から広い視野で話が進められていたように感じました。そして一昨年参加した時よりも、全国各地で展開されている多様な学びが幼児教育と小学校年齢教育において着実に進んでいると感じ、登壇された研究者や実践団体の発表内容も素晴らしく、丁寧な対話を通して現場に寄り添い、独自の多様性を試みながらも「子どものイニシアチブ」や「子どもへの信頼」はしっかりと関係者の間で共有されていることに終始共感を覚えながらの時間でした。本当に中身が濃く、また頂いた資料もたくさんあり、1日目が終わっただけで本当にぐったりしてしまいました。また個人的に法律の面で知らないことも多々あったため、引き続き全国の実践例と共にリサーチを進めていきたいと思います。
●今後の課題
動機の項目で私が「今現在いろいろと考えるところがあり…」と書きましたが、それは一体何かと言うと(前置きが長くなりますが)アートコンパスの立ち上げから今までの活動を一言で総括すると「アートコンパスの強み(コアコンピタンス)をカタチにすることができたこと」だと思います。このことは本当にこれまでご協力を頂いた参加者の皆さんや関係者の皆さんあってのことであり、人で言うところの「個性(強み)」がハッキリと見えてきた感じです。
ではその強み(個性)を生かして自分が自分であるために、他者や地域社会(世界)へ寄与していく次なるステージへ進んでいくとき、その具体的な対象者と地域社会の課題とは何なのか?そしてその活動に伴う組織形態はどのようなものがベストなのか?この2点を中心にこの数か月間、悶々と考えていました。
昨年度の活動報告でも少し触れましたが、インクルーシブの観点から対象者を述べれば赤ちゃんからお年寄りまで。また地域の課題と言っても各分野で本当にたくさんの問題が潜在しています。その多様な対象者と全ての課題に対して全部にぶつかっていくべきなのか?否、的をもっと絞るべき(迷ったときは心の声を聞け!)。
私自身が本当に興味のある対象者と取り組みたい課題はそもそも何なのか?
それは幼児・児童(幼稚園児~小学生の4歳~12歳)を対象とした本丸である「公教育の仕組みを変えること」です。
地域社会の縮図ともいえる学校の仕組みを変えていければ、より良い社会へと必ず変えていけると信じています。この変化は学校という場に限らず、家庭然り、会社然り、日本という国家も然りです。つまり、世の中全体が変わるべき時だと!
そして話が少々飛躍しますが、その活動の先にアートコンパスの強みを生かした産官学民連携の新しい学びの学校・文化コミュニティセンターを地域に創設し、その運営の一躍を担えることができたらなぁ~とも考えています。(実は過去に一度、都内の文化施設における指定管理者の管理責任者のお仕事をさせていただいた経験があります。その経験も生かせるし、雇用機会も地域に生み出せるかなと。)
話を戻します。
それでは先ず何が必要なのか?
① 現在の公教育の問題点を明確にし、その情報を広く共有すること。
② 私たちの理想的な学びのカタチ・在り方、つまりヴィジョンを語り合うこと。
③ そのヴィジョンに向かって、美術教育を媒体に展開し、実践していくこと。
この大まかなプロセスがアートコンパスの今後の活動の根幹として、またブレない芯として明確にしていく必要があると感じています。そしてこの幹を中心軸に、茨城を中心とする地域社会へ枝分かれ(細分化)していくことが可能になってくると。それは外堀から本丸へ行く道なのか?それとも空から直接本丸へ乗り込むのか?いろいろな方法が考えられると思いますが、どのような方法であれそこで必要なものは剣でも槍でもなく、対話と私たちの強み(美術教育)だと考えています。
こんなことを悶々と考えていた時にオンラインでのフォーラムを知りました。(good timingでつながりますね~)このフォーラムで語られていた内容は日本における学びの根幹を自分たちのリアルな課題として本気で正面から取り組んでいる方たちでした。正直、胸が熱くなりました。I'm so moved. ってやつです。
そこでは子どもたちの自由だけでなく、寛容かつ多角的な視野でもって保護者、教員、関係者全ての自由をあわせた本当に意味の学びのカタチを実践されている方たちでした。もし私が今後の活動において、少しでもブレてくるようなことがあれば原点に戻るという意味で、この場がとても大切になってくると感じました。次回も是非参加したいです。
<資料より抜粋>
学習するということは、生まれたときから死ぬまで、社会的文化的な対話という大きな社会の中で随所、随時に行われるべき性質を持つものであり、人々はそのなかで育っていく、ひとり一人違うユニークな設計図を生かしながら自分らしさを実現していく、そのような多様な学習の場を用意する義務がこの社会にあると確信します。
(大田堯ー喜多編著『子どもの学ぶ権利と多様な学び』244ページ所収)
アートコンパスは美術教育を通して、これまでの「排除(競争と管理の学び)」から、「包摂(自由と自立の学び)」への変革に寄与していくアート・コミュニティでありたい、そう切に思いました。
とりあえず、今回はここまでで。
追伸:
今年予定していた法人化についてですが、今回は見合わせたいと思います。
私たちの活動に賛同してくれる方々(メンバー・ボランティア・参加者)を自分たちの歩みで少しずつ集めていきながら、今後も任意団体として、またアート・コミュニティとして活動を続けていきたいと思います。もし近い将来、法人化になるべくその時が来たときは、その時にみんなで検討する感じで!
追伸2:
本日(9/19)事務局より分科会の録画動画のURL(閲覧期間限定)をメールで頂きました。今、参加できなかった他の分科会を見ています。すごい、すごい、すごい、今まで悶々としていたことが明快に言語化されてわかりやすく解説されている・・・笑みが止まらない!
参照:
▼多様な学び保障法を実現する会
▼東京コミュニティスクール
▼智頭の森こそだち舎
▼共育ステーション地球の家
https://chikyunoie.amebaownd.com/
▼大日向小学校 / 日本イエナプラン教育協会
https://www.jenaplanschool.ac.jp/
▼世田谷区ほっとスクール「希望丘」/ 東京シューレ
https://www.city.setagaya.lg.jp/…/ku…/012/007/d00005679.html
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