陰翳礼讃との出会い

もともと絵画を専攻としていた私は、海外の芸術大学へ留学前、美術はもとより、哲学や文化人類学などアートに関連しそうな本を好んで読んでいました。

その内の一冊に、谷崎潤一郎著書の「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」がありました。どのようなきっかけで知り得たのかは忘れてしまいましたが、陰影に対する日本人の美意識を著した随筆があると聞き、「なぜ陰影なの?」と興味を覚え、20代の初めに読んだ記憶があります。

それからロンドンにあるChelsea College of Art & Design (現Chelsea College of Arts)のファインアート科・絵画コースへ留学し、1年次にR教授(この教授は日本通で、むかし日本人の彼女がいたんだよとよく自慢していました・笑)とのチュートリアル(自分の制作している作品やそのコンセプトについて教授と30分、長いときは1時間近く和やかにおしゃべりします)をしていたとき、そのときの話の流れの中で彼がこう聞いてきました。

Prof. R: 「Genya, Have you ever read "Praise of Shadow"?(玄也、“プライス・オブ・シャドウ”を読んだことある?)」

Genya: 「Praise of Shadow?(プライス・オブ・シャドウ?)」

頭の中で直訳すると、「影の賛美?」・・・・あっ!

Genya: 「You mean, Junichiro Tanizaki's book ?(もしかして、谷崎潤一郎の本のことですか?)」

Prof.R: 「Yes!」

その話の後でわかったことですが、実は海外の芸術大学では必読本というぐらいに、学生からプロのアーティストまで幅広く読まれている本だと知りました。(確か海外の文学賞か何かを受賞していたような気がします)

そしてそのとき、過去の遠い記憶を頼りになんとかR教授と冷や汗をかきながら話をつなげたのを覚えています。

その後、あわててその Praise of Shadow を読み直したのは言うまでもありません(笑)。

次回、その Junichiro Tanizaki についてお話しますね。(ぐいぐい話を引っ張ります!)

追伸:
海外ではアートをはじめ、日本の文化に精通している外国人の方たちは本当に良く知っていて、たびたび日本人である自分が知らない自国の文化についてよく質問されました。(例えばあるクラスメイトは論文に日本の禅について書いていました。なぜ禅について書いているの?と聞くと、自分の絵画作品と通じ合うところがあるんだとのこと)そしてその後に関連する書籍を読んだり、あわてて勉強して、自分のバックグラウンドやアイデンティティを知る機会を長年住んでいた日本ではなくロンドンで得ていました。

不思議なもので、その当時、鳥かごの外に出て初めてそのかご全体を見渡せるような気がしたのを覚えています。

そして自分の作品と論文のテーマが「Cultural Identity」となり、帰国してから「日本人の私たちって一体何者?」の探究が本格的に始まり、日本人と自然の関係、和辻哲郎の「風土」や「里山文化」を知り、今のアートコンパスに至ります。(この話は長いのでまたの機会に!)


2009年、群馬県で行われた中之条ビエンナーレで写真の作品を発表。
その当時、遊歩道に映し出された木々の影を様々な角度から撮影し、つなぎ合わせたものです。
タイトル「明と暗」






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